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新生活に伴う
孤独リスクの可視化と一次予防

大学閉鎖期における学生の孤独感とオンライン交流の役割

 新型コロナウイルス感染症の拡大により、多くの大学で休校や対面活動の制限が行われ、学生の人間関係や日常の交流に大きな変化が生じました。本研究では、そうした大学閉鎖期における若者の孤独感の実態を明らかにし、オンラインでの友人との交流が孤独感を和らげる可能性があるかどうかを検討しました。
 2022年4月から7月にかけて、日本全国60の大学・短期大学に在籍する4,949名の学生を対象に調査を実施しました。分析には、心理ネットワーク分析とDirected Acyclic Graphs(DAGs)という手法を用い、大学が閉鎖されていた学生とそうでない学生の2つのグループを比較しました。
 その結果、全体としては、対面・オンラインのいずれの交流も孤独感を和らげる傾向がみられましたが、大学閉鎖の有無によってその様相が異なることがわかりました。大学が閉鎖されていなかった学生では、友人とのオンライン交流が孤独感を低減する傾向にありましたが、大学が閉鎖されていた学生ではその傾向が見られませんでした。さらに、大学閉鎖期に孤独感を左右していたのは、主観的な健康感や対面での交流、周囲からの支え(ソーシャルサポート)であり、オンライン交流の「回数」そのものは孤独感の軽減に直接つながっていませんでした。
 これらの結果から、オンライン交流は対面交流の代わりというよりも、既存の関係を補う役割を果たしている可能性が示されました。本研究は、孤独感の軽減を目指すうえで、オンライン交流の「頻度」よりも「質」が重要であることを示しており、大学や教育機関が今後行う支援策の検討に実証的な示唆を与えています。

 本研究成果は、国際誌 Asian Journal of Social Psychology(Kambara et al., 2025)に掲載されました。

ピア・サポート活動による孤独・孤立予防のあり方を探る

 日本ピア・サポート学会第23回研究大会・下関大会のワークショップで大規模グループリーダーの中島がワークショップの講師を担当しました。
 このワークショップでは、社会心理学の目的や基本的な考え方からはじまり、これまでのソーシャルサポート研究でどのようなことが分かっているのかを紹介しました。さらに、大規模グループが実施した大学入学前後に着目した縦断調査や、心理学グループと施策実施グループが中心に進めた特定の大学での全体調査によって得られた研究成果をワークショップ参加者と共有しました。たとえば、新入生や新社会人に着目した場合、卒業・修了直前の3月中頃の抑うつ症状が一週間後の孤独感を強めるだけではなく、その孤独感がさらに一週間後の抑うつ症状を強めることを紹介し、この時期の抑うつ症状のケアが重要になる可能性を取り上げました。その他、大学新入生の入学時のデータから孤立・孤独リスクの検出器が構築でき、約半年後の精神的健康状態を高い精度で予測できること、そして入学時点で孤独感が高かった学生において他学年との交流会、学科の懇親会・交流会、ピア・サポーターとの関わりなどが半年後の孤独感の低下をもたらすことを紹介しました。
 そのうえで、さまざまな大学での社会実装に際して想定される課題やボトルネックを把握し、実行可能な実装のあり方を精緻化すること目的に、グループワークや参加者全体での議論を行いました。ここでは年度をまたいだピア・サポーターの確保の難しさ、サポーター活動における安全管理の課題、そして教職員による理解や支援の不足がボトルネックとして指摘されました。さらに、孤立・孤独リスクの検出器については、ピア・サポーターやコーディネーター、学生相談室の担当者が、リスク予測値という個人情報をどのように管理・共有し、個別支援や組織的な予防的介入に活かしていくのかという、情報管理および倫理上の課題が指摘されました。
 一方で、本プロジェクトの取り組み自体が、ピア・サポート活動に関わる関係者にとって示唆に富む内容であることも再確認されました。ここで挙げられた指摘は、すでに実施している特定大学での予防的取り組みやベストプラクティス集の作成過程で考慮されているものであり、本プロジェクトの方向性を裏づける貴重な知見となりました。
 なお、このワークショップで紹介したプロジェクトの成果は、2025年5月の名古屋社会心理学会でも紹介されました。その概要については下記リンク先をご参照ください。

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