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新生活に伴う
孤独リスクの可視化と一次予防

楽観的な人はなぜ人間関係を築きやすいのか ― 脳活動から見えた「未来の捉え方」の特徴 ―

 楽観的な考え方は、心の健康だけでなく身体の健康にも良い影響をもたらすことが知られています(Carver et al., 2010)。また、楽観的な人ほど周囲との良い関係を築きやすいことも、これまでの研究で示されてきました(Brissette et al., 2002)。しかし、なぜ楽観的な人が人間関係をうまく保てるのか、その脳の働きまではよく分かっていませんでした。
 本研究では、楽観的な人が「未来」をどのように思い描いているのかに注目し、そのときの脳の活動を調べました。参加者が自分自身や配偶者の未来の出来事を想像しているときの脳活動を測定し、内側前頭前野という領域での神経活動パターンを分析しました。さらに、研究1(37名)と研究2(50名)では、楽観性の高さによって未来を想像する際の神経活動パターンが他者とどの程度共通しているかを検討しました。
 その結果、楽観性の高い人ほど、未来を想像しているときの脳の活動パターンが似通っていることが分かりました。一方、悲観的な人ではこの共通のパターンがみられませんでした。さらに、楽観的な人は「未来の出来事がポジティブかネガティブか」という感情的な区別をより重視している傾向がありました。
 これらの結果から、楽観的な人々は未来を感情的に意味づけるときに共通した神経的な仕組みをもっており、そのことが「他者とのつながりやすさ」につながっている可能性が示されました。

PNASの図.png

 図(a)この図は、人が未来を思い浮かべたときの脳活動の似かた(内側前頭前野での神経活動パターン)を示しています。行と列はそれぞれ参加者を並べたもので、色の違いが「脳の活動がどれくらい似ているか」を表しています。左上は悲観的な人同士、右下は楽観的な人同士の組み合わせです。寒色(青系)ほど脳活動のパターンが似ており、暖色(赤系)ほど似ていないことを示します。つまり、右下(楽観的な人同士)に寒色が多いことから、楽観的な人たちの間では未来を思い描くときの脳の働き方がより共通していることが分かります。

 図(b)この図は、多次元尺度構成法(MDS)という手法を使って、参加者ごとの脳活動パターンの関係を地図のように可視化したものです。1つの点が1人の参加者を表しており、点の色はその人の楽観性の高さを示しています。点が密集しているところは、脳活動パターンが似ている人たちの集まりを意味します。「×」はその中心を表しています。研究1で得られたこの傾向は、研究2でも同様に確認されました。

 本研究成果は、国際誌 Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)に掲載されました(Yanagisawa et al., 2025)。本研究の結果に関しては、神戸大学のプレスリリースも併せてご参照ください。

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