コロナ禍における孤独感の分析① 社会人を対象とした大規模Web調査
本研究では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大が社会人の孤独感にどのような影響を及ぼしたのかを把握し、その地域的特徴を明らかにすることを目的として調査を実施しました。
2021年12月下旬(感染状況が低水準)から2022年1月下旬(感染が急拡大)に、20~30代の社会人を対象とするオンライン調査を2回実施しました。第1回は5,544名(女性2,775名;平均年齢32.76歳)、第2回は4,752名が参加し、各都道府県で概ね同程度のサンプル数となるように回収しました。孤独感(Igarashi et al., 2019)に加えて、配偶者(または恋人)の有無、家族・友人との相互作用頻度などを測定しました。
分析の結果、配偶者や恋人がいない方、また社会的交流の頻度が少ない方ほど孤独感が高い傾向がみられました。また、第1回から第2回への孤独感の変化を比較した結果、第2回の孤独感は高く、感染が急拡大した時期には孤独感が上昇することも確認されました。さらに、Buecker et al.(2021)の手法を修正し、日本国内における孤独感の経時変化マップを作成した結果、西日本に比べて東日本で孤独感の上昇が顕著な地域が存在することが示された。地域をより細かくみると、たとえば静岡県内では東部よりも西部で孤独感が高い傾向が確認されるなど、同一県内でも地域差が存在することが示されました。これらの結果は、感染拡大や社会的交流の制限が地域ごとに異なる形で孤独感に影響を与えていた可能性を示しており、地域特性を踏まえた孤独予防施策の必要性を示唆しています。

この図は、全国の市区町村ごとにみた孤独感の変化を示しています。参加者の居住地情報をもとに、市区町村の中心地点(市役所・町村役場などの座標)と、2021年12月から2022年1月にかけて実施した2回の調査で得られた孤独感データを対応づけました。第1回から第2回にかけての孤独感の変化率を算出し、それをもとに actor-based clustering という手法(Buecker et al., 2021)を用いて、市区町村ごとの孤独感の経時変化の傾向を示しています。
その結果を地図上に可視化することで、孤独感が高まりやすい地域や変化の大きい地域を一目で把握できるようにしています。色の違いは、地域ごとの孤独感の変化の度合いを表しています。
孤立・孤独を防ぐ大学生活の交流の工夫~A大学での全学調査から~
本プロジェクトでは、学生の孤立や孤独を防ぐために、大学生活全体における社会的な交流の機会の設計を重視しています。今回の研究では、大学で行われているさまざまなイベントに注目し、そうしたイベントへの参加が学生の孤独感にどのような影響を与えるかを調べました。特に、入学時点の孤独感を考慮した上で、イベントへの参加が孤独感の変化にどのように関わるかを分析しています。
調査は、学生数約10,000名規模の4年制私立大学(A大学)で実施されました。入学直後に測定した孤独感を基準として、半年後の孤独感との関係を分析しています。対象となったイベントには、新入生オリエンテーション、学科の懇親会、留学生との交流イベント、ピア・サポートなど、学内で行われているイベントであり、さまざまな交流の機会が含まれています。
分析の結果、入学時に孤独感が高かった学生ほど、こうしたイベントへの参加が半年後の孤独感の低下に関連することが明らかになりました。この効果は複数のイベントに共通して見られ、日常的な交流の場が孤独感を軽減するうえで重要であるということを示唆しています。
特に、入学直後の段階で孤立や孤独のリスクが高い学生に対して、自然に交流できる場を提供することが、孤独感の一次予防として有効であることが示唆されます。これらの成果をもとに、効果的な取り組みを整理したプラクティス集の作成を進め、他大学への展開可能性も検討しています。

この図は、入学直後の孤独感(Time1)を考慮したうえで、他学年との交流イベントへの参加が半年後の孤独感にどのように影響するかを示した結果です。分析の結果、入学時に孤独感が高い学生ほど、イベントへの参加が半年後の孤独感の低下に関連していることがわかりました。図に示された帯は、推定の95%信頼区間を表しています。